英語がわかったゴリラが日本の英語教育を変えていく。

―偏差値30台の男がTOEIC満点へ、そして英語学校を作るまで―

 

 

第二話

空手魂に、火をつけろ!

 

 

初めての試合当日。伊勢嶋は意気揚々と会場に現れた。

師範や、道場の先輩や、たくさんの友人たちが、会場に集まっていた。

 

 

これだけ毎日道場に通っている自分が、負けるはずがない、そう思っていた。

いや、そもそも、「負ける」という言葉が頭に浮かぶことすらなかった。

 

何度も言うが、伊勢嶋の頭の中は、明日からのバラ色キャンパスライフだけだったのだ。

 

 

第一試合。

 

こんなものはただの通過点でしかない。

俺は優勝するんだから、むしろシードでもいいくらいだ・・・

 

記念すべき、伊勢嶋の空手人生における最初の試合は、こんな心境のなかで始まる。

 

対戦相手がやってきた。

細いし、小さい。

 

伊勢嶋とて、空手家としては、けして体格がよい方ではないのだが、

そんな伊勢嶋よりずっと小さく、細身の男だった。

 

 

(まぁ、一回戦だもんな、ウォーミングアップといくか。)

 

 

一礼のあと、その短い試合は始まった。

 

 

当初の予定通り、実に短い試合であった。

 

 

ただひとつ、伊勢嶋の予定と違うことがあった。

 

それは、敗者として床を舐めているのが、

伊勢嶋自身であったことだ。

 

 

 

 

・・・それでは、その短い試合の最初まで、時間を巻き戻してみよう。

 

 

「ここはカッコよく、正拳突き1発でKOしてやるか・・・」

颯爽と前に出た伊勢嶋である。

 

「押忍」の叫びとともに、拳に力をこめて、まっすぐ突き出す・・・

そんなイメージが頭に浮かんだ、まさにそのときだった。

 

 

「オ・・・*&$%+@○▼※△☆▲ッ!?」

 

 

どこか懐かしい、この衝撃。

 

伊勢嶋を襲ったのは、あの日と同じ、ローキック。

いや、実際には、勢いよく飛び出したせいで、あの日の何倍も痛い。

 

 

そしてまた、思うのだった。

 

(・・・もう帰りたい)

 

 

 

その後、これといった見せ場も作れないまま、

場面は伊勢嶋が床で寝ているところに戻ってくるわけである。

 

痛みすらわからなくなるくらい、伊勢嶋は自分のなかに沸き起こる気持ちを見つめていた。

 

 

 

 

負けるというのは、こういうことだ。

もう十分、わかっている。

他の誰よりも、負けるということは知っている。

 

 

死に物狂いで練習して、自信満々で臨んだ勝負で、あっさりとボロ負けする。

そんなことを、俺は人生で何度も何度も繰り返してきた。

 

 

この先も、俺は何度も何度も繰り返すのか?

 

この先も、俺は何度も何度も、こうやって床に這いつくばるのか?

 

この先も、いつまで経っても何をやっても、俺は惨めな敗者のままなのか?

 

この先も、ずっと・・・

 

 

 

師範や、道場の先輩や、たくさんの友人たちの視線の先で、

天を仰ぎながら、伊勢嶋は言いようのない悔しさを噛みしめていた。

 

 

そこに歩み寄るひとりの男がいた。

道場のU先輩だ。

 

普段はあんなに厳しい人だけど、こういうときは肩を貸して声を掛けてくれるのか

 

と思った、その矢先だ。

天井のライトで逆光になるなか、冷たい目で見下ろしながら、

U先輩は静かに言い放った。

 

 

「ただ毎日稽古に来てるだけで強くなれるとか思ってるんじゃねぇぞ、このカスが。」

 

 

その言葉が、伊勢嶋の魂に、火をつけた。

 

 

いまは、体が動かない。

でも、絶対に、いつか、この先輩を叩きのめしてやる。

 

絶対に、だ。

 

 

だから、このままじゃダメだ。

これ以上、いままでと同じ自分のままでいるわけにはいかない。

俺はこの敗戦から何かを学び、つかみ取らなきゃならない。

こんな負け方をするのは、もう、これが最後だ。

 

 

 

伊勢嶋のなかで、何かが静かに変わろうとしていた。

 

 

つづく!